偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「ひどい言われようだな。那夕子がちゃんと証明してくれればそれでいい。そして優しい俺は、ちゃんとお膳立てまでしてやった。ほら、向こうを見てみろ」
振り向くとカフェテリアの入口から、尊さんがこちらに向かって歩いている姿が目に入った。向こうもわたしの姿を見て驚いている。
「……どういうこと?」
翔太はいつの間にか立ち上がり、わたしの隣に立っていた。小さな声で尋ねるが、肩をすくめてにやけるばかりだ。
そんなことをしていると、目の前に尊さんがやってきた。その表情は固い。
「那夕子、どうして君がこの男と一緒にいるんだ?」
非難めいた言葉に、顔を俯けた。
「おいおい、川久保さん。彼女はあなたとは別れたと言っています。もう関係ないのでは?」
「那夕子、答えてくれ。どうしてこんな奴と一緒なんだ?」
尊さんは翔太の言葉を完全に無視して、わたしにだけ声を掛けた。何も答えられない。
そしてその態度が翔太を煽る。
「川久保製薬の専務さんが、みっともないな。那夕子とあなたは既に終わった関係だ。だから彼女が誰と何をしようと、口出しできない。そうだろう、那夕子?」
俯いたまま、何も言葉にできない。しかし翔太はそんなわたしを許さなかった。
「さあ、ちゃんと証明するんだ。お前達が他人だってことを」
わたしの腰を引き寄せて、耳元でささやいた。
ぐっと奥歯を噛みしめ、悔しさを紛らわせる。