偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
今日は訪問日ではないはず。となれば、体調が悪いのかもしれない。
わたしは川久保家を避けるように、おばあ様の診察だけには同行していなかった。だからここ最近の詳しい病状はわからない。
カルテをめくって中身を確認していると、背後から声がかかった。
「そんなに心配なら、一緒に行けばいいのに」
声の主は中村先生だ。わたしは彼を振り向き力なく首を振った。
「いまさら、あの家にはいけませんよ」
「どうして? 仕事なんだから割り切ったらいい」
そう簡単にできるわけない。職務放棄だといわれても、それだけはできなかった。
「痴呆は豊美さんの嘘だとしても、心臓の方はこれ以上良くはならない。年齢も年齢だ。命には限りがある、職務上そのことはよく知っているはずだけど。会えるときに会うべきじゃないのか?」
「そう……ですね」
それ以上何も言わないわたしに、中村先生はため息をついた。
「悪かった。そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。午後は俺ひとりで大丈夫だから、真鍋さんの仕事手伝ってあげて。レセプトたまっているはずだから」
「はい。わかりました」
気を遣わせているのはわかっている。結局わたしはいつもこうやって周りの人に助けられてばかりだ。