偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 せめて仕事くらいはきちんとしないと。

 また痛み始めそうな胸をなんとか治めて、わたしは少し早いけれど仕事にとりかかった。

 昼休憩を終えた真鍋さんと、カルテのチェックをおこないながら、月初のレセプト――診療報酬を保険組合などに請求する業務――の作業に備える。事務作業については素人なので、真鍋さんのお手伝いをする。

 真鍋さんは十五時までの勤務だ。小学生のお子さんが帰ってくるまでに帰宅できるとあって、長くこのクリニックで働いている。

「お疲れ様でした。お先に失礼します」

 帰って行く彼女を見送って、わたしは備品の整理をしはじめた。本当は彼女と同じ時間に帰ってもいいと言われたけれど、部屋にひとりでいるよりも仕事をしていたほうがいいと思い、残って気になっていた雑務を片付けることにしていた。

 ひとつ手をつけると、あれこれと手をひろげてしまい気が付けば三時間も時間が経過していた。

「うーん」

 大きく伸びをして体を延ばしたときに、病院の玄関が開く音がした。

 わたし、鍵を閉め忘れていたんだ……。
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