偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 あわてて診察室から出ていくと、そこにいる人物を見てわたしの動きが完全に止まってしまった。

「午前中で診療時間は終了しています。お帰りください」

 緊張で声が震えた。冷たい態度を取ろうとしたけれど、どうやら失敗してしまったようだ。

「妻に会いにきたのに、つれないね」

「誰の事をおっしゃっているのか、わかりません」

 わざとつっけんどんにしてみてみたが、ぎこちない。

「冷たい態度を取られても、会えたことのほうがうれしいなんて、僕は少しおかしいのかな?」

「……っ」

 わたしだって、彼を追い返そうと思っている気持ちの片隅で、会えてうれしいと思ってしまっている。
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