偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「那夕子を迎えにきた。一緒に帰ろう。僕にはやっぱり君が必要だ」 

 すぐにうなずけたらどんなに幸せだろう。けれどそれはできない。

「なに言ってるんですか? わたしがどういう気持ちで……あなたから離れたと……」

 心の奥底に押し込めていた気持ちが、押さえられなくなった。我慢するべきところだと分かっているけれど、できない。

「どういう気持ち? 言ってくれないと伝わらない。僕は君を諦めるつもりは端からないし、この間もそれを伝えたはずだ」

 尊さんは間合いを詰めると、わたしを抱きしめた。

 ずっと欲していた彼のぬくもり。それを感じてなし崩しになってしまいそうになる。

「困ります、だって新薬のことはどうするんです……あっ」

 ここまで必死になって、翔太から脅されたことを隠していたのに、この一瞬ですべて泡になってしまった。

「やっぱり知っていたんだ。君が、祖母のついた嘘だけが原因で家を出たとは信じがたかったんだ」

 こうなってしまったら、すべてを打ち明けよう。翔太が川久保製薬に手出しをするなら、元に戻ることはできないけれど、納得してもらえるかもしれない。
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