偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「片野先生が、わたしに接触してきたんです。川久保製薬の新薬の治験を取りやめるって……」

「おそらく君が僕と別れれば、それらを上手く取り計らうとでも言われたんだろう?」

 わたしは力なくうなずいた。

「ですから、尊さんはもうわたしには会いに来ないでください。でないと……なんのために……わたし……」

 我慢ができずに、ボロボロと涙がこぼれた。気持ちを強く持っていたつもりだったのに、彼の前に出た途端に弱い自分が顔を出した。

「本当に、なんのため――誰のためなんだ? もし、僕のためだというなら、那夕子は僕から離れずに、傍にいるべきだ」

「でもそれじゃあ、新薬はどうなるんですか? 会社や患者さんは?」

 わたしのわがままで、多くの人の未来を犠牲にするわけにはいかない。

「それについては、僕が謝るべきだ。もう少し早く、行動を起こすべきだった」

 どういうことなのか、聞こうと思ったとき、またもや入口が開いた。
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