偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「おい、こいつ病院の前でうろついてたぞ」
中村先生が首根っこを掴んでいるのは、翔太だった。
「どうして、こんなところにっ!?」
まだなにかされるかもしれない。そう思って声を上げた後、明らかに彼の様子がいつもと違うのがわかった。
ヨレヨレのスーツに、無精ひげ。とてもくたびれた様子が見て取れた。
中村先生が手を離すと、ふらふらしながら尊さんの前に出て、どさっと膝をついた。
「助けてくれ、美穂が婚約を解消するって言い出したんだ」
「えっ……?」
三島院長の娘の美穂さんのほうが、翔太をいたく気に入って婚約が成立したと聞いている。それなのに、どうしてそんな話になってしまったのだろうか。
「それは仕方の無いことでしょう? 身から出た錆ということだろうな」
「そんな、なぁ? 院長とは懇意にしているんだろ? 少しくらい」
つい二週間前に会ったときのような、傲慢さのかけらもない。尊さんにみっともなく縋りついている。