偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「しつこいな。あなたは色々と間違えた。最も間違えたことは、那夕子を傷つけて僕を敵に回したことだ」

「……っ」

 地を這うような低い声。わたしは尊さんの聞いたこともないような怒りをはらんだ声に身震いした。

「ちょっと、行き過ぎてしまったようだな」

 翔太が一瞬でひるんだ。けれど彼も後に引けなかったようだ。藁をもつかむ一心で声を上げた。

「たかが、こんな女のために……俺の人生が」

「こんな女……だと?」

 尊さんの小さな声が聞こえるやいなや、彼は一気に翔太の胸ぐらを掴み立たせた。

「ひぃ……く、苦しい」

 狭い待合室に、くぐもった男のうめき声が響いた。

 わたしは固まって声がでない。

「那夕子を〝こんな女〟呼ばわりするなど、失礼にもほどがある」

「離せっ! あぁああっ……くそっ」

 尊さんは暴れる翔太を突き放した。
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