偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「相談もせずに、勝手なことをしてすみませんでした」
「那夕子が周りを絶対に犠牲にしないということを知っていたのに、そうなるより前に手を打てなかった僕が悪いんだ。始まりから卑怯な手を使って、だからこそ誰よりも大切にしようと思っていたのに」
「尊さん……」
「それにもかかわらず君に愛していると伝えることを押さえられない。身勝手な男だということは重々承知しているが、それでも君をもう一度腕に抱きたい」
いつも穏やかで自信に満ちている彼の瞳。彼の痛いほどの気持ちがますます胸を締めつけた。
言葉で伝えようにも、どんな言葉を尽くしても今の気持ちを伝えることができない。
うれしさ、喜び、愛しさ、彼から与えられたすべてのものを受け止めて、その上でわたしの気持ちを表現するための言葉が出ない。
わたしは彼に手を伸ばして、彼を抱きしめた。抱きしめるというよりも、背伸びをて抱き着く形。それでも必死に彼に気持ちを伝えたかった。
「そばにいたいです。離れたくない」
そうつぶやくと、彼の大きな腕が痛いくらいの強さでわたしを抱きしめた。
「那夕子、僕こそもう二度と君と離れているなんてできそうにない」
彼の強い腕と体温に包み込まれて、これまでの辛かった思いが流れていく。
彼に抱きしめられていることでやっと自分自身を取り戻せたような気がする。