偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 コンコンッという結構大きな音のノックの音が聞こえる。

 わたしはビクッと肩をはねさせ、尊さんは邪魔されたことが不満のようで眉間に皺を寄せた。

 明らかに意思を持ったノックの音だった。そこからひょっこりと顔を出したのは中村先生だった。

「俺の神聖なクリニックでいかがわしいことしないでくれない?」

「いかがわしいことなんてない。これは僕と那夕子が愛を――」

「ストップ」

 恥ずかしげもなくなんでも話をしてしまいそうな尊さんの腕を引っ張って、必死で止めた。

 彼は不服そうな顔をしていたけれど、とりあえず言うことを聞いてくれた。

 そんなわたしたちを見て、中村先生はちょっとあきれ顔だ。

「はいはい。さっさと仲直りでもなんでもしてくれ。鍵締めるから出てくれない?」

 手をシッシッとして、わたしたちを追い出す。

 外に出る瞬間、中村先生がわたしにむかってウィンクをした。先生もわたしたちふたりのことを気にかけてくれていたのだ。

 照れくさい思いと同時に感謝の気持ちが沸き上がり、わたしは返事をするかわりに笑顔を浮かべた。

 しかし目ざとい尊さんがそれを見つけて、中村先生を睨みつけた。

「那夕子は僕のものなんだから、今後変な目で見ないでほしい」

 わたしは恥ずかしさで顔を赤くして、中村先生は呆れた様子で首を振っていた。

「はいはいわかったから、さっさとふたりでいなくなってくれ」

 バタンと扉が音を立てて閉められた。
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