偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
 すっかり日は暮れていて初夏の夜風がわたしの髪を揺らした。

「行こうか」

 大きな手がわたしの手をつつみ、歩き出した。

 どこへ?と聞こうと思ったけれど、やめた。彼とならばどこにいってもいいと思えたからだ。

 彼の隣にいられるのであれば、自分にとって場所は関係ないのだと。

 尊さんの車に乗せられて到着したのは、彼のマンション。

 彼は車を停めると、助手席側に回ってドアをあけて手を差し出してくれた。わたしは彼に手を重ねて車を降りる。

 お互い無言だった。けれど久しぶりに彼と一緒に過ごす時間は、特別な言葉など必要ないように思えた。

 視線で吐息で熱で、お互いの気持ちは通じ合っていた。

 部屋に入るなり、靴も脱がずにキスを交わす。

 尊さんは重ねた唇の間から、舌をしのばせながら煩わしそうにネクタイを緩めた。

 思いきり上を向かされて貪るようなキスを与えられたわたしは、喘ぎに似た声を上げながら必死に彼に応える。

 彼の腕に必死にしがみつく。

 キスが唇を離れ、耳から首筋を伝う。カットソーの裾から彼の手が入ってきてわたしの素肌の上を指が伝う。

「……っん、……尊さん、ここ玄関です」

「わかってる。でももう少しだけ」

 そういってわたしを愛でる手を止めることはない。
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