偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
最初にこの門をくぐったとき、あまりにも立派で緊張した。
そのときとは違う緊張がわたしを襲っている。
翌日、わたしと尊さんはふたりそろって川久保邸に向かっていた。
「尊さん。わたしおばあ様に合わせる顔がありません」
理由があったにしろ、切り捨てるようにして出て行ってしまった。ここでの看護師としての仕事も投げ出した。
とても悲しい顔をさせてしまった。あのときの顔がまだ頭から離れないのだ。
「どうして? 今日の那夕子もとてもかわいいよ」
「ち、違います。そういうことじゃなくて」
わざとそんな言い方をする彼を軽く睨む。けれど尊さんは笑って受け流すだけだ。
「那夕子はなにも悪いことなんてしてないだろう。もとはと言えば、こちらばかりが迷惑をかけているのだから、堂々として。ほら、あそこで待ち構えてる」
車を降りて顔を上げると、玄関先におばあ様がいらっしゃるのが見えた。
こちらに大きく手を振っている。にっこりと笑う温かい笑顔に、緊張よりもうれしさが勝ってしまった。
単純なものだ。
足早でおばあ様のもとに向かい、車椅子の前にしゃがみ手を取った。