偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「おかえりなさい、那夕子さん」
強い力で手を握られ、慈しむように声をかけられた。
出ていくと告げた日、ひきとめてくれるおばあ様をふりきってしまったことを思い出し、涙が滲んだ。
「……ただいま、戻りました。ご心配をおかけしました」
「よく戻ってきてくれましたね。わたくしたちが振り回してしまい、ごめんなさいね」
わたしに対する嘘を、おばあ様もずっと後悔しておられたのだろう。
「素敵な嘘をありがとうございます。わたし今とっても幸せなんですよ」
おばあ様は少し驚いた顔をしていたけれど、そのあとすぐに「奇遇ね、わたしもよ」と、満面の笑みを浮かべてくれた。
うれしくて、尊さんの方を見ると、彼もまたわたしの方を見ていた。
「さあ、中にお入りなさい」
おばあ様に言われて、玄関をくぐった。
長い時間住んでいたわけでもないし、ここを離れて一ヶ月も経過していない。
それにもかかわらず、とても懐かしい気持がした。
きっとここが、自分が帰ってきたかった場所だからだろう。
自分が自分らしくいられる場所。みなが必要としてくれていて、身も心もおちつける大切な場所。
「ただいま戻りました」
そう声に出すと、隣に立つ尊さんがうれしそうに答えてくれた。
「おかえり」
お互い微笑む。見つめ合うだけで心を温かくしてくれる彼の隣にいることが、わたしにとっての何よりもの幸せだった。