偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「はい、お待たせしました。ちゃんとした店のラーメンです」
そんなわたしたちの前に、ドンッとラーメンが置かれた。
怒らせてしまった店主の様子を窺おうと、おそるおそる顔を上げると、バチッと目があった。
最初はいかめしい顔をしていた店主に、どうしようかと思った瞬間、ニコッと笑ってパチンとウィンクしてきた。
思わずぽかんとしたわたしと川久保さんだったが、「どうぞ、美味いから早く食べて」という店主の言葉に、またもやふたりで声を上げて笑った。
「いただきます!」
同じタイミングで手を合わせたわたしと川久保さんに、店主は満面の笑みを浮かべて「ごゆっくり、どうぞ」と言って奥にあるコンロの方へと移動した。
目の前にあるラーメン鉢からは、湯気とともにいい香りが漂ってくる。
この店のラーメンは尾道ラーメンで醤油ベースのスープに背脂が浮かんでいる。麺は少し太めだ。
見ているだけでもまたもやおなかが鳴りそうになり、早速食べ始めた。
「ん~美味しい」
思わずうなってしまったわたしの声に、川久保さんも同意した。
「ほんと、これは失礼な発言をもう一度、謝らないといけないですね」
うんうんと激しくうなずくと、川久保さんはにっこり笑ってそれから思い切り麺をすすった。
ネクタイが汚れないように肩に掛けて、夢中で食べている姿に自然と顔がほころんだ。
イケメンもラーメンを食べるときは、普通なんだな。と、そんな彼の飾らない姿に好感度がぐっと上がった。
たったそれだけのことなのに、なぜだかすごく幸せな気分でラーメンをすすった。