偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
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「俺、結婚するから」
わたしが二年付き合っていた相手、片野翔太(かたのしょうた)からそう告げられたのは、今から一ヶ月ほど前のこと。
うそ……これってプロポーズ?
外科医である翔太と看護師であるわたしの出会いは職場である三島紀念病院だ。きっかけはありきたりなことだった。何度か食事に行って告白をされて……。
外科医として優秀な翔太は尊敬できたし、なによりもお互い仕事について理解しあっている関係は、一緒にいるととても楽ではあった。
しかしそれなりの期間つき合っていると、少しマンネリを感じていたのも事実だ。
けれど同棲を始めて二年も経つと、どこのカップルもこんなものなんだと思っていた。
ときめきがなくなったのは単に新鮮味がなくなっただけ、けれどそれはふたりの関係が安定してきたおかげなんだとそのときのわたしは思っていた。
いや、思い込もうとしていたのだ。
翔太が三十五歳で、わたしが二十八歳。お互いの年齢から考えてもいずれは一緒になるのだろうと漠然と考えていたこともある。けれどここのところ彼と一緒に過ごすこれから先のこと思い描けないでいた。
ずるずると一緒にいる関係を正当化するために、〝安定〟という耳障りの良い言葉でごまかしていたのだ。
げんにプロポーズめいたことを言われても、驚くばかりで喜びは湧いてこなかった。
だから突然の彼から出た〝結婚〟という言葉に意識を持っていかれ彼の言葉のニュアンスがおかしいことに気がつかなかった。
「え? いつ……」
「半年後……」
「ずいぶん、急じゃない? わたし――」
だけど最後まで言わせてもらえず、翔太が先手を打つように口を開いた。