偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
 別に難しいことではない。今は仕事もしていないし時間も比較的自由になる。

「わかりました。わたしもおばあ様がまだ病院にいらっしゃったら病室にお見舞いに伺うつもりだったので、お会いできることになってうれしいです」

「ありがとうございます」

 さっきまでの思い詰めた表情がふんわりと緩んだ。口元にかすかにたたえた笑みが控えめだけれど、うれしさが伝わってきた。

 つられてわたしも笑顔になる。

「では、さっそく行きましょうか?」

「えっ!? 今からですか?」

 川久保さんはすでに立ち上がっていた。

「はい。善は急げと言いますから。小沢さんはこの後、お時間大丈夫ですか?」

「ええ。まあ」

 たしかに、お見舞いに行こうと思っていたとは伝えたけれど、まさか今日、今すぐとは思ってなかった。

「なにか不都合でもありますか?」

 途端に眉尻を下げて残念そうな顔をされる。そんな顔をされると断りたくても断れない。

「いえ、大丈夫です」

 このチャンスを逃せば、次にいつ行けるのかわからない。先方の都合も考えて、わたしは今日向かうほうがよいと判断した。

「では、まいりましょう」

 にっこりとほほ笑まれて、手を差し出された。
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