偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「お前には、悪いと思っている」
「悪いって、勝手に結婚を決めたこと?」
たしかにびっくりはしたけれど、そんな悲痛な面持ちで言うようなこと?
このときのわたしは、まだ彼の本当に伝えたいことがわかっていなかった。
「そりゃ驚いたけど、そんなに困った顔をするようなことかな?」
「許してくれるのか?」
「許すもなにも――」
そこまできて、やっとバカなわたしは気がついた。
もしかして……相手はわたしじゃないの?
急にだまりこくったわたしの肩に翔太が手を置いた。
そんなに力を入れていないはずなのに、大きな石をのせられたようにズシリと感じた。そして嫌な予感は的中する。
「すまない。俺、院長の娘と結婚する」
「…………」
謝罪の言葉を告げた翔太は、わたしと目を合わせようともしない。
どうして?
たしかにわたしたちの関係が、上手くいっていたとは言いがたい。けれどわたしと一緒に暮らしながら、他の女性との結婚を決めてしまうなんてあまりにも不誠実ではないか。
どうしてわたしが、こんな思いをしなくてはいけないのだろうか。
「いつから……なの?」
最初に出てきた言葉が、本当に聞きたかったことなのかどうかもよくわからない。
気まずそうにしていた翔太は、彼女とのなれそめをわたしに詳しく話した。
「半年前かな、院長の家でのパーティで向こうから話しかけてきたんだ。無下にできないだろう。彼女、お嬢様だから男と付き合うのも俺が初めてらしくてさ――」
医院長の娘、三島美穂(みほ)さんは絵に描いたような箱入り娘だ。都内の女子大を卒業したあとは、今時めずらしい家事手伝いという名目の花嫁修行をしていると聞いたことがある。
翔太はいいわけがましく、出会いから順を追って説明した。