偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
彼女の目にも、不安が色濃く出ていた。わたしに目礼をした彼女はワゴンを押して部屋を出て行った。
「コーヒーが冷めるといけないので、飲みましょう」
おそらく心の中は、色々な思いが渦巻いているだろう。けれど川久保さんは、落ち着いた様子で、わたしにコーヒーを勧めてくれた。
「いただきます」
勧められるまま、暖かいコーヒーを口に運ぶと、彼もまた同じように一口のんだ。そしてしばらくテーブルの上を見つめて、しばらくなにか考え込んでいるようだった。
「こんな形で足止めしてしまって、すみません」
「大丈夫です。ご存知かもしれませんが、わたしは今、無職なので時間だけはたくさんあります。ですからお気になさらないでください」
少しでも場を和ませようと、ちょっと自虐的に努めて明るく答えた。目の前で落ち込んでいる人がいるのに、このくらいしかできなくて歯がゆいけれども。