偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「祖母は僕にとって大切な人なんです。だから少しでも喜ばせたい。それに協力してもらえませんか?」
「でも……結婚だなんて、そんな大切なこと……」
とても簡単に返事ができるようなことではない。
「たしかにそうですね。だから〝フリ〟だけでもお願いできませんか?」
「フリ?」
川久保さんはわたしを見つめたまま、至極真面目な顔でうなずいた。
「僕だって、小沢さん――那夕子さんじゃないと、こんなこと頼みません」
ど、どうしてわざわざ名前を言い直すの?
彼の真剣な目にたじろいだ私は、そのまま彼の話を聞くことになった。
川久保さんは握っていた手を離すと、ご自身の年齢や家庭環境、仕事についてゆっくりと話し始めた。
そこで初めてわたしは彼の素性を知ることになる。
「川久保製薬の……専務さん、でしたか……」
頂いた名刺を見て驚き、まともに頭が回らない。
三十六歳の若さで、大企業の専務だなんて……。