偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
それがわたしに対してどれだけ無神経なことなのかわかっていないのか、詳細を聞かされる身にもなってほしい。
自分から聞いておいてなんだけれど、もうこれ以上は聞きたくない。
ぐっと目をつむって早く話が終わるのを待った。
「いや、那夕子には悪いと思ってる。だけど、院長の娘との結婚を前にしたら、なぁ? ほらわかってくれよ。俺もつらいんだって」
出世街道に乗り、若くて可愛い奥さんをもらうことの、どこがつらいの?
思わず口に仕掛けたけれど、なんだか惨めになりそうでやめた。
でもよく考えてみればすぐに「別れたくない!」と言わなかったわたしも、彼に対しての気持ちがさめてしまっていたのかもしれない。
彼との将来を思い描いていた時期もあった。でもそれは、自分でも覚えていないほど昔のことで、わたしたちの関係はもうとっくに終わってしまっていたのかもしれない。
お互いただの惰性で付き合っていた……その結果がこの別れなのだ。
くるべくしてきた、そう思うことにした。
しかし、自分の中でそう気持ちの落としどころを見つけたとき、翔太が驚くべきことを口にした。
「那夕子はさぁ、ここで俺が来るのを待っていればいいから。今までとなにも変わらないよ。ただ、やっぱり会える頻度は少なくなるかな」
「……どういうこと?」
まさか……。
翔太の言葉の意味がわからずに――いや、わかりたくなくて――もう一度確認する。