偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 川久保製薬株式会社と言えば、医療用医薬品の売り上げが五年連続国内最高。新薬の研究も盛んで常に国内製薬会社のトップに君臨する会社だ。

 三島紀念病院でも川久保製薬の薬を多く扱っていたので、どれくらいすごい会社なのかもよくわかっている。MRもできる人が多くて、質の高い情報を提供してくれると、医師たちが話をしているのをよく耳にした。

それに加えて、三島紀念病院では川久保製薬で開発した新薬の治験協力も行っている。

 ……だから、翔太のことも知っていたんだ。

 三島紀念病院は川久保製薬のお得意様だ。翔太が三島家の婿養子に入る話を知っていてもおかしくないだろう。

 翔太のことを思い出すことで、少し胸が痛む。それは失った恋の痛みというより、自分が愚かな恋をしたことに対する自責の念のようなものだ。

「那夕子さん?」

「あ、すみません……」

 名前を呼ばれてはっと、我に返った。

 至近距離に急に整った顔があって、恥ずかしくなった。頬に熱が集まっているのがわかる。きっと赤くなってしまっているはずだ。

 耐えきれずに目を逸らそうとしたとき、川久保さんが小さく笑った。
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