偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「ちょっと確認していいですか? あなたはたしか今、休職中でそれと同時に住むところも探していた――そうでしたよね?」
「はい。病院を辞めてしまったので……」
それと元カレと同棲していたマンションを出たので……と、これは言わないでおく。
「じゃあ、ここからは提案なんですが。あなたには祖母の様子を見ていてほしいのです」
「それは看護師としてですか?」
川久保さんは、うなずいて話を続けた。
「そう。祖母の容体は知っての通りであの歳なので完治も見込めません。秋江さんひとりだと、これから大変だと思うんです。だから現役の看護師である君がそばについていてくれると思うと、僕も安心できます」
たしかに、この間おばあ様が倒れられたとき、秋江さんはパニックになっていた。
「難しく考えなくてもいいんですよ。普段は話し相手になってもらって、生活の全般を手伝ってあげて欲しいんです。とはいっても、祖母もまだまだなんでもひとりでできますが。もちろん、報酬は払います」
それを聞いてわたしはすぐに確認した。
「では〝夫婦のフリ〟はしなくてもいいってことですか?」
「いや、祖母がそう思い込んでいる以上、夫婦のフリはしてもらわないと困ります」
わたしは慌てて、両手を胸のところで振ってその申し出を拒否した。
「だ、ダメです! 嘘をつくのに、お金をもらうなんて」
わたしの中では〝夫婦のフリ〟はあくまでも善意での行為だ。けれどお金を受け取ったらそれを否定してしまうことになる。