偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「僕がそんなことするはずないでしょう。おばあ様ちょっと落ち着いてください。また発作が起きてしまいます」
「そうさせているのは、あなたでしょう。さあ、さっさと那夕子さんに謝って、許しを乞い、寝室を共にしてもらえるように頼みなさい」
おばあ様の肩越しに、川久保さんが助けを求めるような視線を送ってくる。
こうなってしまった以上、わたしが寝室を一緒にすることに同意をするまで収まりそうにない。
川久保さんがまるで捨てられた子犬のような目で、わたしを見つめてくる。頼まれごとに弱いわたしの性格を、彼はすでに見抜いている。
どうしようもなくなったわたしは、力なく彼にうなずいた。渋々であるが、この方法しかない。
途端に川久保さんは笑顔になった。でもそれはほんのわずかの時間で、その後すぐに神妙な面持ちになる。
「そうですね、僕が全部悪いのです。今から誠心誠意、那夕子に謝って許してもらいます」
「そうしなさい。あなたには那夕子さんしかいないんだから」
川久保さんはこちらに向かって歩いてきた。そしてわたしの前で止まると、ぎゅっとわたしの両手を握った。
「寂しい思いをさせて悪かった、これからは君との時間をなによりも優先させるから、許してくれるかい? 那夕子」
眉尻を下げて心の底から謝っているように見える。
その演技力の高さに気圧されて、わたしはコクコクとうなずくことしかできない。
「ああ、やっぱり君は最高だよ。那夕子」
握られた手が引き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられた。
「きゃあ!」
突然の温もりに驚いて、小さく悲鳴を上げた。