偽装夫婦～御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない～

「悪かった。まさか祖母があそこまで口出しするとは思わなかったんだ」

　抱いていた肩をポンポンと二回叩くと、わたしをソファの方へと促した。

　言われるままに、わたしは部屋の真ん中にあるチャコールグレーの大きな布張りのソファに座る。

　川久保さんは部屋の中にある扉の中に入って、すぐに出てきた。手にはボトルワインとグラスを持っている。

　そのままわたしの隣に座り、ボトルとグラスをローテーブルに置いた。

「とりあえず、ちょっと飲まない？　ワインは好き？」

　わたしがうなずくと、ふたつのグラスそれぞれに赤いワインを注いだ。ひとつをわたしに差し出して、もうひとつは彼が持つ。

「乾杯しよう」

　とてもそんな気分ではない。と、いうのが正直な気持ち。いったいなにに乾杯するというのだろうか。

「え……はい。雇用契約が成立したお祝いですか？」

　わたしの言葉に、彼は口をあけて笑った。

「あはは。たしかにそうだけど、それじゃ味気ないよね」

　グラスの中のワインを転がしながら、彼がわたしに視線を向けにっこり笑う。

　その極上の笑顔は、まだワインを飲んでいないわたしの顔を赤くするくらい素敵だった。

　そして彼はグラスを掲げた。

「僕たちの結婚記念日に、乾杯！」