偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 それを見たわたしが頬を膨らませると、我慢ができなくなったのか屈託なく思いっきり笑った

 川久保製薬の専務。スマートなふるまい。加えて誰もが振り向くような容姿を備える彼のこんな姿を知るものは、そう多くはないはずだ。

 ……って、どうしてわたしが優越感なんて持つわけ?

 自分が特別だなんて、おこがましい。ただ少しの間、成り行き上彼の妻としてふるまうことになっただけなのに。
 なんだかよくわからない感情が芽生えてきた。それをごまかすようにワインを飲み干すと「どうぞ」とお代わりを尊さんが注いでくれる。

 それからは、お互いについて話をした。小さなころの話や、学生時代の話。社会人になってした失敗や、うれしかったこと。

 まだ出会って間もない彼相手に、翔太にも言っていないことまで話をしたのは……彼が仮だとしても、わたしの旦那様だからだろうか。

 彼のことをもっと知りたい、自分のことをもっと知ってもらいたいと、思ったのは〝彼〟だからなのか。

 考えても出そうにない疑問が頭に浮かんだあたりから、わたしの記憶は薄れていった。

 瞼が重く、体もだるい。きっと昨日飲みすぎたせいだ。ベッドに横たわったまま目も開けずに、昨日のことを反省する。

 いい大人なんだから、お酒の飲み方くらい気をつけなくちゃ。

 頭の中で自ら反省をうながしていたところで、はたと気がつく。
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