偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
それから一週間もたたないうちに、翔太と院長の娘さんとの婚約話が院内を席巻した。
ほんの数人ほどわたしたちの交際について知っていた人物に心配されるのを「大丈夫だから」と笑顔で交わす。
まるで腫れ物をさわるような態度に、逆にこちらが気を遣ってしまうがそれも数週間だけのこと。
そう思っていたのだけれど……。
彼の言う『後悔することになる』という言葉を、わたしは甘くみていたのだ。
事態は収まるどころか、思わぬ方向へと動き出した。
わたしがそれを知ったのは、看護師長から呼び出されたときだった。
「そんな、どうして!」
会議室に呼び出されたわたしは、普段職場では出さないほどの大きな声を上げた。
目の前にいる看護師長はわたしがこの病院に入って以来、ずっとお世話になってきた相手だ。いたたまれないといった表情で、ため息をついて話を続けた。
「私だって信じているわけじゃないのよ。小沢さんがストーカーだなんて……」
「あたりまえです。わたし絶対そんなことしませんから」
悔しさに拳を握りしめて、看護師長に訴えかける。
「わかっているわ。だから私や事務長もなにかの間違いじゃないかって必死になって意見したのだけれど、被害者である片野先生が訴えている以上、無視はできないのよ」
翔太は、わたしが彼にストーカー行為をしていると職場に訴えたのだ。
わたしが周囲に自分とつき合っていると嘘をつき言いふらしている、一方的にメールや贈り物を送りつけてきて困っていると言って証拠として提出したらしい。
そもそも――わたしたちが過ごした恋人としての時間はすべてわたしの妄想で、わたしが彼に恋するあまりにストーカー行為に出たのだと、そう言っているとのことだった。
「そんな嘘、どうして……」
勝手に別の相手と婚約して、わたしたちの関係を壊したのは向こうなのに、どうしてこんな仕打ちまでされなくてはいけないのだろうか。
悔しくて目頭が熱くなる。
しかし泣いてしまっては負けだと思い、なんとか我慢して自分の主張を繰り返す。