あの日見た綺麗な星空を君ともう一度
(……夏芽…結局あの約束を守れてないじゃんっ!)
授業を受けながら、紗弥は夏芽のことを考えていた。夏芽は、あの約束をした数週間後に亡くなっている。
「今日は、欲求段階説についてやるよ!」
五十鈴先生はプリントを配りながら言った。
(マズローのやつか…懐かしいな)
紗弥はそう思いつつプリントを後ろに回した。数枚で止められたプリントにさっと目を通すと、名前を記入した。
「……覚えてる?このピラミッド作った人」
五十鈴先生は雪乃を見つめながら言った。雪乃は少し首をひねると「スズロー」と答えた。その言葉に爆笑が起こる。しかし、紗弥には笑う気が起こらなかった。頭の半分が夏芽のことで支配されていたから。
「マズローさんですよ。一番下から水が飲みたいや食べ物が欲しいなどの『生理的欲求』、安全な生活を求める『安全の欲求』、どこかに所属したいという思いや愛されたいなどの『所属と愛情の欲求』」
「自分を認めて欲しいなどの『承認欲求』、自己の成長や潜在能力の実現を願い、自分らしく生きたいと思う『自己実現の欲求』があります」
五十鈴先生は一つ一つ解説をしていく。紗弥はそれを適当に受け流し、プリントをめくった。
「…次に終末期の心理状態についてやりたいと思います」