あの日見た綺麗な星空を君ともう一度
「まず、終末期とは…治療で回復の見込みがなく、数週間から数ヶ月のうちに死亡するだろうと予期される状態になった時期をいいます」

五十鈴先生の言葉に紗弥は固まった。紗弥の脳裏に「私、あと数週間で死ぬんだ」と絶望的な表情を見せた夏芽の姿が浮かんだ。

「…実際に終末期の患者さんに話を聞いて心理状態を5段階に分けて示した人をキューブラー・ロスと言います」

「キャンベラ・トス?」

「……キャンベラってオーストラリアの首都じゃん」

後ろで桜花が答えた。その一言で教室は笑いで包まれる。しかし、紗弥は笑わない。黙々とホワイトボードに書かれていることを写していた。

(……夏芽もこんな心理状態になっていたのかな。…もう夏芽には会えないの?……私は、本当に介護士になっても良いの?)

紗弥の頭は夏芽のことで埋め尽くされた。授業の楽しさよりも夏芽に会えない寂しさが紗弥を支配している。

紗弥は感情を抑えきれずに泣いた。五十鈴先生はそれに驚き「どうしたの?大丈夫?」と紗弥の背中を優しく擦った。
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