あの日見た綺麗な星空を君ともう一度
その日から数日が経った日の授業。五十鈴先生はプリントを配布し、紗弥たちに名前を書くように促した。
「今日は、認知症についてやりたいと思います。認知症には、原因によっていくつかの種類があります。皆が一度は耳にしたことがある『アルツハイマー型認知症』と『脳血管性認知症』なとがあります」
「『アルツハイマー型認知症』は、原因が不明と言われており脳が萎縮することによって起こります。『脳血管性認知症』は、脳卒中(血管が詰まる脳梗塞や血管が切れる脳出血などをまとめた言い方)を起こしたことが原因でなると言われています」
「認知症は、物忘れや記憶障害を特徴としています。加齢による正常な物忘れの場合、体験の『一部』を忘れ、認知症の場合は、体験の『すべて』を忘れます。例えば、正常な物忘れの場合は『今日の朝食に何を食べたのか』を忘れ、認知症の場合は『今日の朝食を食べたこと』を忘れます」
「また、認知症には色々な症状があり、自分のいる場所や時間が分からなくなる『見当識障害』や少し前に起きたことや家族の顔をすっかり忘れてしまう『記憶障害』、計算が出来ない『計算力の低下』や物事の判断が難しくなる『判断力の低下』が挙げられます」
「認知症高齢者の介護は、介護者は自分自身の特徴を知る(自己覚知という)ことが大切で、介護者は穏やかな気持ちで介護に望み、徘徊をした場合には、その行動の背景を理解するように努めましょう」
五十鈴先生の解説を聞きながら、紗弥は父方の祖母のことを考えていた。
(……もし、ばあちゃんが私たちのことを忘れてしまったら…一番、傷つくのは私かもしれない……)
授業を受けるにつれ、紗弥の介護士になりたくないという思いは強くなっていった。