冷やし中華が始まる頃には
10月の事件
10月になった。

ならと峯岸は、水曜日のこもれび陶芸（ひだまりとはなのたねの中でそういう教室名に決まった）と、金曜日のプライベート陶芸教室の後は毎回2人で食事しに行った。

いつもたわいもない話で盛り上がって、夜遅くならないうちに帰る。

そんな穏やかな日々が続いていた頃、事件が突然はなのたねで起こった。

それは水曜日のひだまり陶芸の最中だった。

猛が「矢幡さんに陶芸の作品を笑われた」として、矢幡さんに襲いかかったのだった。

隣に座っていた笹崎が瞬時に猛を押さえ込んだため矢幡さんに被害はなかったが、場は一時騒然とする。

菅原さんと峯岸が猛を作業室から連れ出し落ち着かせたものの、久しぶりの荒々しい出来事はみんなにショックを与えた。

今回の報告をするため峯岸のお母さんが事務室に呼ばれた。

ならが作業室の掃除をしていると、窓から猛とお母さんが帰っていくのが見えた。
お母さんはハンカチで口元を押さえ、泣いているように見える。

そこへ女性の理事長が駆け寄る。
理事長は何と言葉をかけたのか、次の瞬間お母さんはその場に泣き崩れた。

ならは見てはいけないようなものを見てしまった気がした。

テーブルを拭かないと、と我に戻って振り向くと、入り口に峯岸が立っていたことに気付く。

峯岸は窓の外の出来事を見たものの、何も言わずに道具をしまう。
ならにはかける言葉が見つからない。

お互い無言のまま作業室の片付けにあたった。

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