冷やし中華が始まる頃には
今日は一緒に帰らない方がいいかな。

雰囲気からならはそう読み取る。
タイムカードを切ってひだまりを出ると、駐車場でトランクの中を片付けている峯岸が目に入った。

「お疲れ様でしたー。」

さりげなくならがそう言うと、峯岸が勢いよく顔を上げた。

「え、なんで。」

なんで一緒に帰らないの?というようなニュアンスだ。
ならは少し立ち止まる。

「今日はそういうテンションじゃないでしょ。」

ならが気まずそうに言うと、峯岸は静かにため息をつく。

「送ってくよ。」
「大丈夫だよ。」
「いや、俺が大丈夫じゃないよ。」

峯岸が静かにそう言い放った。

え?

ならは固まる。

「送らせてよ。」

重ねるように峯岸が言った。

なんでこんな寂しそうな顔をするの。

ならが初めて見る表情だった。

ならは断る理由もなかったので、周りを気にしながら車に乗り込む。

「ビックリしたでしょ。」

最初の信号待ちで、初めて峯岸が口を開く。

何の事を指してるのかはすぐに分かった。

「まあ。初めて見たから。」
「最近は調子良かったんだけどな。」
「?」
「猛も、母ちゃんも。」
「・・・」

信号が青になって少し沈黙になる。

「ごめん、ちょっとドライブしよ。」

峯岸が急な提案をする。

「うん、いいよ。」

ならがそう言うと、駅を通り過ぎていつもとは違う方向へ向かった。

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