冷やし中華が始まる頃には
最初に口を開いたのは峯岸だった。

「母ちゃんさあ、離婚する前からうつ病なんだよね。」

「実は。」と付け足す。

いつも穏やかで優しい表情しか見たことがなかったため、ならは静かに驚いた。

「でもお母さん元気そうだよね?」
「うん、離婚して実家に戻ってきてから少しは元気になったかな。」
「そっか。」

ならはそれ以上何も言えずにいた。

峯岸が続ける。

「でもやっぱ今日みたいなことがあるとさ、突然ガクンときちゃうんだよ。」

さっき作業室から見た光景を思い出す。

峯岸もまた少し静かになる。

車はいつのまにか港に着く。
夕方5時。
日もすっかり短くなった。

峯岸は適当なところに車を停めると「ちょっと待ってて」と一度外に出る。

戻ってくると手にはペットボトルのお茶が握られていた。
運転席に座ると「はい」と1本ならに渡して、静かに話を再開した。

「離婚する時、俺大学いたし、父ちゃんについて行こうかなって思ったんだ。そうすれば大学通えるかなって。・・・でも、やっぱり母ちゃんが心配だった。」
「それで大学辞めて・・・。」
「うん。」

しばらく峯岸は考え込むように黙り込んだ。
ならはゆっくり峯岸の次の言葉を待つ。

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