冷やし中華が始まる頃には
東京
季節は春になった。

ならは都内マンションへ引っ越してきた。

峯岸とは新幹線のホームで別れただけだった。

本当に私、社会人になれるのかなあ。

段ボールの箱を折りたたみながら、ならは漠然とした不安を抱えていた。

「ならちん、この箱も開けていいー?」

里佳子がキッチンの方から叫ぶ。
里佳子も都内の企業に内定し、この春一緒に引っ越してきていた。
大学4年間一緒だった里佳子とこうして東京でも会えることに安心する。

「ごめん、おねがーい。」

ならは、バタバタとした引っ越しのおかげで、峯岸と離れたことに対する寂しさが紛れていることに気付く。

大和は今何やってんのかなあ。

「雷様からなんか連絡きた?」

タイミングよく、ドキッとする質問を里佳子がカウンターから覗くようにして投げかけてきた。

「昨日の夜は電話した。」

里佳子がニヤッと笑う。

「いいなー、いいなー。一目惚れした相手と付き合えるなんて。」
「ほんと、そうだよね。」
「そうだよ。まあ、私は笹崎っていう人もかなり惜しかったと思うけどね。」

里佳子はよく意地悪な発言をする。
ならは「笹崎の名前出さないで。」と笑う。

「来週からOLかあー。」

ならは窓の外に浮かぶ雲を見て、何ともなく呟く。

「緊張するねー。」

里佳子も呟いた。


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