冷やし中華が始まる頃には
夜は蒸し暑く、ジメジメとしていた。
ビアガーデンには同じ部署のほとんど全員が集まり、大変賑わっていた。

ならは途中でトイレに席を立つと、スマホをチェックした。

着信が2件ある。

どちらも峯岸からだ。

ならは急いで掛け直した。

峯岸が電話に出る。

「ごめん、飲み会かなんかだった?」
「うん、今日ビアガーデンで職場の人たちと飲んでた。」
「あーそっか。ごめん、じゃあいいや。」
「用事とかなかった?」
「うん、別に。」

峯岸が寂しそうに言ったところで、偶然酔っ払った田口が通りかかる。

「あーれー?陶芸家の彼氏ー?」

ならはサッとスマホを隠す。

「うるっさいよ。あっち戻っててよ。」
「えー、俺話してみたいー。いつもならがお世話になってますーみたいなー。」
「うーるーさーい!」

電話がまだ峯岸と繋がっていることを思い出して、ならはスマホを耳元に戻す。

「ごめん、もしもし?」
「もしもし、電話切るわ。」
「ああ、ごめん、なんか。」
「ううん。じゃー楽しんで。」

その「楽しんで」がどことなく排他的な響きを持っているように感じた。

電話はプツリと切れる。

「あれ?終わっちゃったのー?」
「あんた、幹事でしょ。ベロベロじゃん!」

ならは田口の肩を軽く叩いて、席に戻った。

なんとなく電話の後味の悪さが引っかかった。

気のせいだったらいいけど。


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