冷やし中華が始まる頃には
峯岸と笹崎は、繁華街にある小さな薄汚い居酒屋で待ち合わせた。

峯岸が店に着いた頃には、笹崎は既にビールを飲んでいた。

「すみません、遅くなりました。」
「いや、俺もつい数分前に来たばっかです。」

華奢なテーブルを挟んで、峯岸は笹崎の向かいに座る。
入って最初に注文したビールは、すぐにキンキンに冷えたジョッキに入れられて運ばれてきた。

2人は「おつかれさまです。」と乾杯する。

一口を思いっきり飲んでジョッキをテーブルに置く。

最初に口を開いたのは笹崎だった。

「・・・で、なんで別れたんですか。」

とても単刀直入な質問だった。

峯岸がしばらく黙って考え込む。
判断に至った経緯を整理しているようにも見てとれる。

「なんでっていうか、そもそも俺、付き合うつもりじゃなかったんです。」

峯岸が口にしたのは、とても意外な一言だった。

「えっ?」

笹崎が言葉に詰まる。
峯岸が淡々と続ける。

「かなり最初の頃、すでに俺はならのこと『いいな』って思ってたんですけど、その頃に『東京行く』って本人から聞いたんですよね。『あーこの子は東京で働くんだ』って思ったら、その時にもう終わりを感じちゃったんです。」

峯岸が一度ビールを口に含む。

「『どうせ終わるならこれ以上好きになるのはやめておこう』って思ってました。・・・めっちゃカッコ悪いでしょう。」

笹崎がキムチをつまみながら「カッコ悪いっすね。」と答える。

「でもやっぱり近くにいると、どんどん好きになっていくし、もう抑えきれなくなっちゃったんですよね。」

笹崎が頷く。

「『あーもう頭でっかちに考えるのはやめようかな』ってフワッて思っちゃったんですよ。でも、やっぱりならと離れて、東京との距離以上に遠いものを感じてしまって、『やっぱり』って。ならが遠くなっていくのを眺めながら焦るのも嫌だった。」

「なんかこう・・・」と峯岸は自分の頭をガシガシに掻きながら言葉を漏らした。

「俺の今やってることって、一年二年で結果が出ることじゃないし、俺はまだまだ自分の人生を見出してないんです。ならと出逢ったタイミング、悪かったなって思ってました、ずっと。」

そこで峯岸はやっと話を終えた。
笹崎はずっと黙って聞いていた。

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