冷やし中華が始まる頃には
アルバイトの内容はなんてことはなく、知的障害者の人と1日を過ごすだけだった。
一緒に花を育て、ビーズアクセサリーを作り、料理をし、特別なことをしているわけではないのにお給料が発生する、ならにとっては大変ありがたい仕事である。
残念なことに、2年前の自転車の女性は家族の都合で別の施設へと移ってしまったようだが。

障害児を対象とした放課後等デイサービスの施設「はなのたね」と「ひだまり」は同じ建物内にあって、職員同士仲が良く、菅原さんを中心によくまとまっていた。

「来年から吉永くんもとうとうひだまりかー」

はなのたねの職員、矢幡さんがランチ中に突然発した。

「吉永くんってどの子ですか。」
「ほら、身長低めで、目がクリクリしてて、髪ツヤツヤで・・・分からない?私のイチオシなんだけど。」
「ああ、いつも花壇に水あげてる・・・」
「そうそうそう、お花ボーイ。ひだまり行ったら寂しくなるなあ。なーんて、むしろひだまりでラッキーだけど。」

矢幡さんは一見化粧の濃いギャルだが、明るく誰とでも壁を作らないため利用者からも人気がある女性だ。

「私、あの背の高い子かっこいいと思います。」

ならも話題に乗ってみる。

「誰だろ、峯岸くんかな。色黒い?」
「そうです、そうです。」
「彼ね〜・・・、ハハッ!普段の彼見たことないもんね、多分。私にはちょっと手に負えないかな。」

矢幡さんは明るくごまかした。
はなのたねは、ひだまりとは異なり、障害が重い子もいる。
しかし矢幡さんは全く苦労を感じさせないため、利用者問わず対応できているように感じていた。

「基本同性介護だから意外とそんなに接点ないんだけど、側から見てても、彼は・・・難しいかな!」

矢幡さんの口から意外な言葉が出る。
ひだまりは軽度の知的障害者が集まっているからか、ならは今までに対応に困ったことはなかった。
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