キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 なんて言いながら、宙斗くんは私のために海までついてきてくれた。うれしくなってテンションが上がった私は「ニヒヒ」と気味悪く笑いながら両手でさりげなく水を掬う。それをこぼさないように慎重に歩いて、ぼんやりと地平線を見つめている彼の顔めがけてバシャっと水をかけた。

「ぶはっ、なにすんだよ!」

 目を白黒させて濡れた顔を片手で拭った宙斗くんは、勢いよく私を振り返る。その顔には驚きと苛立ちが同時に映っており、私はイタズラが成功して満足しながらピースをしてみせた。

「海といったらこれ、定番でしょ?」

「ほう、いい度胸じゃねーか。そこでじっとしてろよ、飛鳥」

 片側の口角を持ち上げて不敵に笑い、いつもはおろしている前髪を鬱陶しそうに掻き上げる宙斗くん。その仕草に、心臓がドキンッと跳ねた。

 な、なんたる色気……! さすがはイケメン、心臓が止まるかと思った。

 ただ、なにかを企んでいるらしい宙斗くんは恐ろしい。私は少しずつ後ずさったのだが、それを上回る速さで目の前にやってきた宙斗くんが水面に腕を突っ込む。至近距離で私に向かってニヤッと笑うと、宙斗くんは腕を勢いよく水面から上げた。

「きゃあっ!」

 バシャっとバケツの水を被ったみたいに、びしょ濡れになった。おろしていた髪が肩や頬に張りついて、気持ち悪い。

「倍仕返し」

 片目をつぶり、ペロッと舌を出した宙斗くん。怒りたかったのに、かっこよすぎて見とれてしまった。

 もう、わざとなんじゃないかなぁ。

    

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