キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 待ってましたとばかりに、肺いっぱいに酸素を吸い込む。十分に呼吸ができるようになってようやく目を開けると、私の手首を掴んでいたのが宙斗くんだったことに気づいた。

「し、死ぬかと思った……。宙斗くん、助けてくれてありが──」

「バカ、心配しただろ!」

 お礼の言葉をすべて言う前に、強く抱きしめられていた。

「え、宙斗く……」

「心臓、止まるかと思っただろうが!」

 彼の怒鳴り声を聞きながら、背中と腰に回った腕と直接感じる肌の温かさに脈が早まる。

 宙斗くんの声、震えてる。ううん、声だけじゃなくて体も……。

「ごめんね、心配かけちゃって」

 私があやすように彼の体を抱きしめ返すと、それ以上の力で引き寄せられる。今までこんなにも、彼と近づいたことはあっただろうか。ううん、きっとない。きみは今、無我夢中で私の無事を喜んでくれているんだ。

「まったくだ。リボンならまた作ってやれるけど、お前の命は替えがきかないんだぞ」

 宙斗くんの咎める言い方でさえ、愛しく思える。きみにとって私は、少しでも大切な存在に慣れているんだってこと。命がけだったけれど、それが知れただけで溺れかけたかいがあった。

「うん、ありがとう。でも宙斗くん、このリボンだって替えがきかないよ?」

 私がリボンを握りしめていた手を上げると、宙斗くんは“どういう意味だ?”と言いたげに見つめてきた。

    

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