キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 勢いで口をついた発言は取り消せないのが辛いところで、宙斗くんは案の定「底なしの食欲」とだけ言うと私に大食い女のレッテルを貼った。

 部屋に戻ってから頂いた夕食はほっぺが落ちそうなほど口の中でとろけるウニやさざえ、あわびといった高級な海の幸におくら山芋、冷やし茶碗蒸しといった夏の旬の食材の宝庫だった。

 食後、美代はクリスさんのところへ行ってしまった。東堂先生への想いが恋なのか、そうじゃないのか。わからないからこそクリスさんとも会ってみて、自分の気持ちと向き合いたいと美代は言っていた。

 美代、大丈夫かな……。

 部屋を出ていくときの彼女はやっぱりどこか不安そうで、あの顔が頭にこびりついて離れない。

「おい、大丈夫か」

「え?」

 声をかけられて我に返ると、宙斗くんが私の顔をのぞき込んでいた。その瞳には気遣いが感じられて、私は慌てて笑顔を繕う。

「あ……ごめんね、なにかな?」

「なにかなって……。次、カード引くの飛鳥だぞ」

 それに答えてくれたのは、答えたのは楓だった。

 そういえば私、今ババ抜きしてるんだっけ。そうだ、部屋にひとりでいるのは寂しかったので、夕食のあとも宙斗くんと楓の部屋に残ったんだった。

「ご、ごめん。じゃあ、引くね」

 私は楓からトランプを一枚引くと、そこにあったジョーカーを見てギョッとする。

    

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