キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 また考え事をしていると、宙斗くんの声が私を現実に引き戻す。ハッとして宙斗くんを見ると、楓をキッと睨んでその場を立つところだった。

「え、宙斗くんどっか行っちゃうの?」

「飲み物買ってくる」

 そう言って宙斗くんは、お財布だけでなく鞄ごと肩にかけた。そして扉のほうへ歩いていくと、足を止めてこちらを振り返る。

「お前も来いよ」

「へ?」

「荷物持ち」

「は、はぁ」

 宙斗くん、どれだけ飲み物買うつもりなんだろう。でも、私も行くって言おうと思っていたからラッキーだった。まさか宙斗くんのほうから誘ってもらえるなんて、うれしい気まぐれもあったもんだ。

「じゃあ楓、行ってくるね」

 私も立ち上がると、座ったままの楓にひと言かける。すると眉尻を下げて、楓は切なさをその瞳に映した。

 楓……?

 私が目を見張っていると、それは瞬きのように一瞬で笑顔にすり替わる。今のは気のせいだったのだろうかと、彼の顔をまじまじと見たのだが、やっぱりいつものへらへらした楓のままだった。

「飛鳥、この部屋に帰ってこなくてもいいぞー」

「は?」

 ニヤニヤする楓の言葉の意味を考えて、理解した瞬間に私は顔を真っ赤にした。

「もう、馬鹿!」

 バシッと頭を叩くと、楓はカラッと笑った。それを見たら、さっきの切なそうな楓の表情は気のせいだったのだとホッとした。

「飛鳥、行くぞ」

    

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