キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 だっ、抱きしめられた! もう、宙斗くんはどうしちゃったんだろう。女嫌いじゃなかったっけ?

 彼の変貌ぶりに私はただただ戸惑って、されるがままになっていた。宙斗くんの腕の中でカチコチに身を固まらせていると、棘のある声が降ってくる。

「お前が……笑顔ふりまいてんのがムカつく」

「はい?」

「この髪だって、簡単に触らせやがって」

 宙斗くんはこちらからは見えないけれど、私のうしろの髪を梳きながらときどき指に巻きつけて遊んでいるようだった。

「明るくて真っすぐなところとか、どんな俺を見ても全力で応援してくれるところとか……本当にムカつくんだよ」

 急に、私の悪口大会が始まったんですけど、でも乱暴な言葉とは反対に彼の顔は真っ赤で、怒っているわけではなさそうだった。言葉と表情が一致しない彼に唖然としながら、とりあえず話を聞く。

「俺の世界を簡単に変えやがって……恐ろしいヤツ」

 そう言った宙斗くんの手の動きが、緩やかになる。もしかして、と顔をのぞき込むとスヤスヤ寝息を立てて眠ってしまっていた。

「……は? え、嘘でしょう」

 寝ちゃったの? こんな状況で文句だけ言って勝手に夢の世界に旅立っちゃうとか……。

「ヒドイよ、宙斗くんっ」

 私はどっと疲労感に襲われて、体の力を抜く。

    

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