キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 廊下を全力疾走する私を、すれちがう生徒たちが二度見するのがわかった。それでも構わず走り続けて、屋上に続く扉の前で足を止める。私のいる踊り場は幸いにも人気がなく、私は扉を背にズルズルとしゃがみ込んだ。

「誰かを想うのって、どうしてこんなに苦しんだろう」

 ――でも、想うことをやめられない。

「きみの心を知ることが、どうしてこんなに怖いって思うんだろう」

 ――なのに、知りたいと思ってしまう。

 相反するこの気持ちが恋なのだと知ったとき、まるで病気のようだなと思った。治療薬はなくて、きみが好きな限り切ない、悲しい、苦しいはつきまとう。

「飛鳥、こんなところにいた」

 宙斗くんに見つかった!?

 焦ってバッと顔を上げると、そこには苦笑いの美代がいた。

「み、美代……どうしてここに?」

「なんとなく、ここにいる気がしたのよ」

 うわ、出たよ。美代の超能力。

 その勘の鋭さを恐ろしく思いながら、私は横にずれて隣に座ろうとする彼女にスペースを空けた。

「いいの? 宙斗くんの話聞かなくて」

 美代は優しく声をかけてくれるけれど、私は両膝を立ててそこに顔を埋める。

 よくないって、わかってる。だけど怖いんだよ、宙斗くんの言葉を聞くことが。また拒絶されたらって、どうしても嫌なことを考えてしまう。宙斗くんに言われた「もう近づくな」という言葉が、頭にこびりついて離れないんだ。

「あのね、飛鳥。私、週替わりの形だけの恋はやめた」

    

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