キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 こんなに必死な宙斗くんの顔は、見たことがない。踊り場から一段下にいる彼を、私は戸惑いながら見つめる。

「今さら、なんの話があるってるんだよ」

 宙斗くんを追い越して、階段を上ってきたのは楓だった。そのまま私の隣に並んで、宙斗くんを厳しい目で見下ろす。

 楓も、来てくれたんだ……。

 その横顔を見つめながら、胸を温かさが満たしていくのを感じた。親友の存在が、私の不安を見事に払ってくれる。

「半端な気持ちで飛鳥に近づくなら――」

「私は、話した方がいいと思う」

 楓の言葉を遮ったのは、もうひとりの親友――美代だった。楓は「美代!」と声を荒げて、どうして止めたんだとばかりに厳しい目を美代に向けている。そんな楓に首を横に振って見せた美代は、静かに宙斗くんを見据えた。

「ただ、二度目はないわよ。うちの飛鳥を泣かせたら、そのときは本気で去勢するから」

 満面の笑みで恐ろしいことを告げる美代に、その場にいた全員に戦慄が走ったのは言うまでもない。

「そのとき、その役目は楓にあげるから、ここは引いて」

 美代は楓の肩にポンッと手を乗せる。すると楓は「はぁーっ」と深いため息をついて、自分の髪を掻き回した。

「あーあ、しかたねーな」

 楓は天井を仰いでそう言うと、視線を宙斗くんに向ける。

    

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