キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 おどけてみせると男子は肩の力を抜き、張り詰めた教室の空気もふわっと和らいだ。

 これで、よかったんだ……。
あとで、こっそり取りに行こう。

 そう思っていると、廊下側の一番前の席に座る高杉宙斗くんが急に立ちあがり、そのままスタスタと教室を出て行ってしまう。

彼は学校でもイケメンが入学してきたと話題になっている、ちょっとした有名人だ。

 予鈴も鳴ったのに、どこに行くんだろう?

 彼はそのあと、「腹痛でトイレに行ってました」と言って授業途中に帰ってきた。

 おかしいな。
教室を出ていくときはお腹が痛そうな素振りもなかったし、わりとしっかり歩いてたと思うけど……。

ここまで考えて、私は結論の尾を掴む。

あ、サボりかな?
見た目はクールで優等生みたいだけど、人は見かけによらないんだな。

 なんて、私はどこか他人事のように考える。

私はイケメンを鑑賞するのはもちろん、好きか嫌いかで言えば好きだ。
けれど、色恋の話となれば別問題。彼のような完璧な人を好きになれるほど自分に自信はないので、彼の行動をいちいち気に留めるようなことはしなかった。



「はぁ、リボンどこいちゃったんだろう」

 昼休みになってすぐ、一階の植木に落ちただろうリボンを探しに行ったのだが、見つからなかった。

放課後になっても諦めきれず、部活のある美代とバイトのある楓は巻き込めないので、ひとりで探してきたのだが、結果は同じ。リボンはどこにもなかった。

「お気に入りだったのにな……」

    

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