キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
「わかってる……。じゃあ、胃に優しいやつで」

 それだけ言ってカクリと俯いて力尽きた彼に、私は苦笑する。いくら偽装だとバレないためとはいえ、手を繋ぐことすらままならないのにデートはハードルが高かったのかもしれない。気の毒に思いながらも、私はメニュー表に視線を落とす。

 胃に優しいやつかぁ……。

 私は悩みながらメニューにしばらく視線を巡らせて、ある食べ物に目を止めた。

「あ、トマトリゾットなんてどう?」

「ん、そうする……。はぁ……」

 疲れている宙斗くんの代わりに注文を済ませると、私は席を立ちドリンクバーへ向かう。そこでハーブティーを淹れると、彼にスッと差し出した。

「これ、紅茶か?」

 宙斗くんはカップに鼻を近づけて香りを嗅ぐと、「ほうっ」と安心したように息をついた。

「うん、ハーブティー。最近はドリンクバーにティーパックも置いてあるんだね、ファミレスって」

 私は冷たいカルピスをストローで飲む。喉が渇いていたのか、ひと口飲んだら止まらない勢いで私は乾きを潤した。

「なんか、落ち着く」

 カップに口をつけた宙斗くんの顔に笑みが浮かび、私も口元を緩める。少し顔色がよくなったみたいで、私も安堵した。

   

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