キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 そしてファミレスを出ると、私は逃走前にどうしてもしなきゃいけないことがあったので宙斗くんを振り返る。それと同時に鞄からお財布を出して、紙切れ一枚を手に取った。

「おごってもらうのは、悪いから!」

 宙斗くんは私がトイレに行って戻ってくる合間に、支払いを済ませてしまったのだ。

 スマートすぎる彼の紳士対応。乙女としてはもちろんうれしいんだけど、申し訳なさ過ぎる。だから私は千円札を一枚ペラッと突き出して、宙斗くんにそう言ったのだけれど……。

「“デート”なんだろ、なら俺が払う」

「いやきみ、高校生でしょ!」

「もう忘れたか、俺は売れっ子のハンドメイド作家なんだぞ。これくらい、どうってことない」

 そう言って千円には見向きもせずに、「くあっ」と欠伸を咬み殺す宙斗くん。宙斗くんが売れっ子のハンドメイド作家なのは、私もリピーターなのでよく知ってる。でも、デートとはいえ偽装だし、おごってもらうのは気が引けた。

 千円札を見つめたまま私が困り果てていると、宙斗くんはチラッと私を見て小さくため息をつく。

「ありがとう、そのひと言でいい。余計な気を回すな」

「あっ……」

 なにそのイケメン発言。いや、彼は紛うことなきイケメンなんだけど、カッコよすぎるでしよ!

 ドキドキと心臓が悶え苦しんでいる中、私は姿勢を正して宙斗くんに向き直る。

「宙斗くん、ありがとう。ごちそうさまでした!」

    

< 67 / 178 >

この作品をシェア

pagetop