キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 帰ったなんて、勘違いした自分を殴りたい気分だ。それはそうと、そもそもどうして宙斗くんはいなくなったのだろう。

 疑問に思っていると、おもむろに宙斗くんが目の前で片膝をつく。

「宙斗くん、どうしたの?」

「いいから、じっとしてろ」

 質問には答えずに宙斗くんはただ無言で私の足を掴むと、淡々と靴を脱がせ始める。

「えええっ! なんで靴なんか脱がせるの!?」

「うるさい、鼓膜破れる」

 ピシャリと身じろぐ私を咎めた宙斗くんは、ビニール袋から水の入ったペットボトルを取り出した。私の足を持ったまま器用に蓋を開けて、足に水をかけてくる。

「痛っ」

 水が触れた循環に足の親指の付け根と踵に鋭い痛みが走り視線を向けると、皮が剥けて血が滲んでいた。

「私、靴擦れしてたんだ」

「ヒールで思いっきり走ったからだろ、無茶しすぎだ」

 宙斗くんは丁寧に水で洗い流すと、傷口に絆創膏を貼ってくれる。

「必死だったから、全然気づかなかったよ」

 でも、宙斗くんは私の怪我に気づいてくれてたんだ。もしかして、手当てするために水と絆創膏を買いに行ってくれたのかな。

 彼のわかりにくくてさりげない優しさに胸がじんわりと温かくなり、傷の痛みも癒えていくようだった。

「これに履き替えろ」

「これ……」

    

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