キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 耳元で、そんな楓の声が聞こえた。知らず知らずのうちに俯いていた顔を上げようとしたら、目の前に影が落ちて楓の胸板が私の顔面に衝突する。

「ふがっ」

 な、何事!?

 パニックに陥っている間にも、楓の腕が背中に回って強く抱きしめられる。ジタバタと暴れると、楓が憂いを含んだため息をついた。

「ったく、損な役割だよな」

「え? どういう意味?」

 楓の声が切なそうに聞こえたのは気のせいだろうか、胸がざわついて落ち着かない。私は楓の腕の中で返事を待ったけれど、いっこうに答えは返ってこなかった。

「あ、飛鳥っ」

 え、この声って……。

 心臓が期待にトクンッと跳ねる。私は楓の腕の中から顔を出して、名前を呼んだ人を確認した。

「……悪いが、そいつを返してくれないか」

「う、そ……」

「俺の彼女だから」

 そこにたのは、まぎれもなく宙斗くんだった。楓を見据える彼は、表情こそ少ないが威圧感を放っている。

「宙斗、くん……」

 私のこと、彼女って言ってくれた。たぶん、みんなに偽装だってバレないための演技なんだろうけど、心臓がドキドキする。うれしいって、どうしても思っちゃうよ。

「俺は飛鳥の親友だからさ、慰めてただけだけど」

 楓は私を抱きしめる手に力を籠める。

 え、楓……?

    

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