綾の秘密の夏休み
蝉の声がまとわりつく神社の境内は、今日も誰もいなかった。


龍の彫刻から水が流れる手水で綾は手を洗った。


なんで私はこんなにダメなんだろう。
なんで私はこんなに嫌われることしか出来ないんだろう。


ショルダーからハンドタオルを出して手を拭いていると、階段の方から声がする。


まだ会って三日なのに、その声は違和感なく綾の耳に馴染んだ。


「綾、いるー!?」


声の方を見ると、片手でカップラーメンを持ったリョウが階段を上がってきた。


「こぼしそうで走れねえよー」


リョウの笑顔はいつも顔全体で笑っている。


「何分経ったか俺わかんねーよ!
のびる前に食べるぞー!!」


リョウはなんでこんなに楽しそうなんだろう。私の人生なんて楽しいこと一つもないのに。


綾はそう思ったけど、リョウの笑顔につられて少し口元を緩ませていた。
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