19時、海風が頬を撫ぜる丘でさよならを。
「ピアス、見つかった?」
「え?あ、あー。ううん、ねぇんだわ、どこにも」
「大切なものなの?」
「いや、そうゆーわけじゃ、ねえんだけど。せめてもの抵抗、っていうか」
「抵抗?」


なんだか歯切れが悪い口調だけど、二日も探してるくらいだからきっとなにかあるんだろうな。


「うちさ、漁師やってんだよ、親父」
「へえ、そうなんだ」
「うん。だから中学卒業したらお前も漁に出ろって。何時代だよって思わねえ?」
「え、高校行かないの?」
「俺、勉強は嫌いだからさ、別に高校行くとか行かないはいいんだけど。でもそれを親に決められるってのがなんかね」
「わかる!」
「だろ!だから髪染めたりピアス開けてみたりって、進学で内申気にする必要ないから好き放題してみてるんだけど、別にそれも特別したくてやってるわけじゃねーしで」
「じゃピアスも?」
「うん。だからそんなに凄く、どうしても見つけないとってもんじゃねーんだわ。でもなんかこう、無くしたら、自分で決めた!って芯みたいなものがひとつ無くなっちまうような気がしてさ」
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